【第3回】取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(2026年6月4日)の内容まとめ
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第3回が、2026年(令和8年)6月4日に開催されました。今回は、日本商工会議所・日本税理士会連合会の委員と、会計学者の委員が、それぞれ資料をもとに説明を行いました。本記事では、公表された資料と議事要旨をもとに、議論の内容を整理します。
※本記事は国税庁の公表資料に基づく事実の整理であり、評価方法の改正内容や時期は現時点で決まっていません。
開催概要
- 日時:2026年6月4日(木)10:00~12:00(WEB併用)
- 出席委員:12名
| 説明者 | 主なテーマ |
|---|---|
| 日本商工会議所(阿部委員・玉越委員) | 中小企業と事業承継に係る税負担/取引相場のない株式の評価に係る課題 |
| 日本税理士会連合会(大畑委員) | 実務上困っている点と見直しの具体案 |
| 櫻井委員(会計学) | 会計学における企業価値評価の研究状況 |
前回(第2回)からの変化・進展
第2回(2026年5月11日)では、相続税法22条の「時価」の考え方(法学)、会社法の観点からの株式評価、M&A実務における企業価値評価が説明されました。第3回では、次のような点が新たに示されています。
- 中小企業・税理士の立場からの意見が本格的に示された:日本商工会議所と日本税理士会連合会が、事業承継への影響や実務上の負担を具体的に説明しました。
- 純資産価額方式の「引下げ方向」の見直し論:清算コストや退職給付債務などが反映されておらず、純資産価額が過大ではないかという指摘が、複数の委員から出されました。
- インカム・アプローチの具体的モデルの検討:会計学の観点から「残余利益モデル」が紹介され、必要なデータや論点が示されました。
- 事務局の考え方の表明:「円滑な事業承継」を評価の枠組みの柱に据えることは難しいという考えが、事務局から示されました。
- 今後の進め方に関する要望:委員から、検討の範囲、税収への影響のシミュレーション、今後のスケジュールを示すよう求める意見が出され、次回以降に事務局が対応するとされました。
第3回で示された主な資料
日本商工会議所の資料
- 中小企業は企業数の99.7%、雇用の約7割を占めるとするデータ
- 日経平均株価は、会計検査院・国税庁の調査対象期間と比べて2倍以上に上昇しており、類似業種比準価額と純資産価額の乖離は縮小していると推測されるとの説明
- 平成29年改正(利益の比重を3倍から1倍へ)や昭和58年改正(小会社に併用方式を導入)は、事業承継への配慮によるものだったという整理
- 実際の清算では、換価コスト・退職金・みなし配当課税(最大55%)などで手取りが減るため、現行の純資産価額は清算価値を上回っているという図解
- 評価通達186-2(現物出資等受入れ差額)の存在意義の再整理と、無議決権株式を使った配当還元方式の濫用には平成15年改正前の規定の復活で対応できるという提案
日本税理士会連合会の資料
| 区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 実務上困っている点 | 会社規模が小さくなると評価が上がる逆転現象、純資産価額算定の作業負担、類似業種の判定の難しさ、比準要素数1の会社に該当すると株価が急上昇すること |
| 今後論点となり得るもの | グループ法人税制を使った子会社への利益集約、従業員持株会の取得価格と通達評価の差、無配当会社の配当還元価額が最低額(2円50銭)になる問題 |
| 見直しの具体案 | 法人税の課税所得ベースの収益還元的な評価、税務上の簿価純資産の採用や退職給付債務の控除、事業承継税制との一体的な議論、発行会社への株式譲渡に係る特例の創設 |
櫻井委員の資料
- インカム・アプローチには配当割引モデル・DCFモデル・残余利益モデルの3つがあり、将来予測が正しければ理論上は同じ評価額になる
- 定性的な比較では残余利益モデルが優れているとの整理(純資産に、利益から自己資本コストを差し引いた「残余利益」を還元して加える方式)
- 適用する場合の論点として、資産・負債の時価評価の要否、将来利益の予測(過去実績との紐づけ、5年程度に限定する案)、自己資本コストの設定(非上場会社はβを一律1.0とする案)が示された
- 市場平均の投資収益率は、直近10年で9.05%、直近20年で5.58%との試算
委員から出た主な意見(議事要旨より)
評価と事業承継・税負担の関係
- 評価の目的を明確にしたうえで、株式評価と税負担を一体的に議論すべきという意見
- 事業承継税制の特例措置の利用は年間約1,200件程度にとどまっており、評価の問題と切り離して考えるのは難しいという意見
- 予見可能性を損なうような根本的な制度変更には慎重であるべきという意見
- 一方、商工会議所側は質疑で、政策的な評価減を通達に盛り込むべきとは考えていないと回答
純資産価額方式について
- 継続企業を解散価値で評価するのは違和感があるという意見
- 換価コスト、退職給付債務、資産除去債務などを考慮しないと過大評価になるため、引下げ方向の見直しが必要という意見
類似業種比準方式について
- 客観性・簡便性・予見可能性があり、税務執行の安定を支えてきたとして存続を求める意見
- 非経常的な利益は控除され損失は加算されないため、株価操作の余地があるという指摘
- 上場会社の株価を小規模な会社に当てはめることの妥当性を疑問視する意見
残余利益モデルについて
- 中小企業には精緻な事業計画がなく、税務評価の標準手法として使えるのかという疑問
- 節税目的で圧縮された利益をどう調整するかという質問に対し、過去の実績利益に紐づけた予測が最低限必要との回答
- 純資産価額方式との自由選択制にすると恣意的な選択につながり望ましくないとの回答
事務局の発言
- 類似業種比準価額は株価だけでなく配当・利益・純資産の動きにも左右され、近年はこれらが株価以上に上昇しているため、価額が下がるケースもあると説明
- 平成29年改正は必ずしも事業承継のためではなく、データに基づき選択されたものという経緯を説明
- 「円滑な事業承継」を評価の骨格の柱とするのは難しいとの考えを示した(個別のパラメータで考慮する余地はあり得るとの言及あり)
次回の予定
第4回は2026年7月3日(金)10時から開催されることが、会議の最後に事務局から伝えられました。
よくある質問
Q. 純資産価額方式の評価は下がるのですか?
A. 第3回では、純資産価額が過大ではないかという意見が複数の委員から出されましたが、見直しの内容は決まっていません。
Q. 事業承継への配慮は評価に反映されますか?
A. 商工会議所などから考慮を求める意見が出た一方、事務局は評価の枠組みの柱とするのは難しいとの考えを示しています。現時点で結論は出ていません。
Q. この会議の資料はどこで見られますか?
A. 国税庁ホームページの「研究会・懇談会等」で、各回の資料と議事要旨が公表されています。
出典
- 国税庁 第3回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料・議事要旨
- 国税庁 第2回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨(比較のため参照)
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