【第2回】取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(2026年5月11日)の内容まとめ

国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第2回会議が、2026年(令和8年)5月11日に開催されました。今回は3名の委員が、税法・会社法・M&A実務というそれぞれの立場から、非上場株式(自社株)の「時価」や評価方法について説明しました。本記事では、公表された資料と議事要旨をもとに、議論の内容を整理します。

※本記事は国税庁の公表資料に基づく事実の整理であり、評価方法の改正内容や時期は現時点で決まっていません。

開催概要

  • 日時:2026年5月11日(月)14:00〜15:30
  • 場所:中央合同庁舎第4号館(WEB併用)
  • 出席委員:12名
説明者テーマ
渋谷委員(中央大学教授)相続税法22条の「時価」とは何か
弥永委員(明治大学)会社法の観点からの取引相場のない株式の評価
熊谷委員(日本M&Aセンター)M&A実務における中小企業の企業価値評価

前回(第1回)からの変化・進展

  • 第1回は国税庁による実態把握データ(類似業種比準価額が純資産価額の約4分の1)や評価額圧縮スキームの類型など、課題の提示が中心でした。第2回は委員による専門的な説明に移り、「そもそも時価とは何か」という理論面と、M&Aの評価実務という実務面の検討が始まりました
  • 第1回で意見として出た「インカム・アプローチ(収益方式)の検討」「上場会社の株価を基準にすることへの疑問」について、会社法の裁判例の傾向(類似業種比準方式が使われなくなり、DCF法が多数)という具体的な材料が示されました
  • 第1回で出た「時価の評価と税負担の在り方は分けて議論すべき」という論点について、分けるべきとする説明と、評価の見直しと事業承継税制の拡充を一体で議論すべきとする意見の両方が出ました
  • 非上場株式の流動性の乏しさ(非流動性ディスカウント)をどう扱うかが、新たな論点として議論されました

各委員の説明のポイント

渋谷委員:相続税法上の「時価」

  • 相続税法22条の「時価」は、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額であり、実際に取引されない財産も、その想定で評価する
  • 時価は幅のある概念で、課税上は「かための評価」が一般的。ただし時価を下回る評価がされる財産もある
  • 資料では、東京高裁令和6年8月28日判決の事案(取引相場のない株式)で、通達評価額がM&Aによる買収額の約8%だった例が紹介されました
  • 非上場株式は事業承継の観点から評価額が抑えられてきたが、税負担への配慮は本来、基礎控除・税率・特別措置など法律で行うべきで、評価水準の平等には評価通達の合理化が必要

弥永委員:会社法の観点

  • 会社法の価格決定の裁判例(公刊物掲載)では、昭和62年の決定を最後に類似業種比準方式は採用されていない。比準割合やしんしゃく割合に理論的・実証的な根拠がないこと、適切な比準対象の上場会社が見つからないことが背景とされる
  • 平成17年の札幌高裁決定以降、DCF法またはそれを主な要素とする裁判例が多数を占め、純資産価額は評価の「下支え(下限)」と位置付けられることが多い
  • 清算価値が継続価値を上回るのに会社が続けられている場合、株主が役員報酬など株主以外の立場で利益を得ていると推認される
  • 税法上の評価は、裁判と比べてかけられるコストと時間が少ない点に違いがある。低い評価が政策的に必要なら、評価方法ではなく事業承継税制などで対応するのが筋ではないか

熊谷委員:M&A実務の企業価値評価

  • M&Aでの評価は、交渉の「発射台(叩き台)」を示すためのもので、譲受企業とのシナジーは織り込まない
  • 中小企業では類似する上場会社が見つけにくく、事業計画もないことが多いため、DCF法などの適用は難しい
  • 実務では「時価純資産+営業権」の方法が最も多く採用されている
  • 税務上の評価との主な違いとして、土地を時価で評価する、賞与・退職給付引当金を負債に計上する、高額な役員報酬や節税目的の保険などの損益を補正する、といった点が挙げられました

質疑応答で示された主なデータ・回答

項目回答内容(熊谷委員)
コストアプローチの適用ほぼ全ての案件
マーケットアプローチの適用全体の3〜4割程度(参考値)
DCF法の適用全体の1割程度(規模の大きな案件)
評価額と成約額の差平均的に評価額の2割増し程度との感触
簿価純資産と時価純資産平均では時価純資産がやや上回る程度

資料では、営業権の持続年数(年買法)の参考値として、全国平均4.0年(「中小M&A白書〈2024-2025年版〉」)も紹介されました。

委員から出た主な意見(議事要旨より)

流動性の乏しさ(非流動性ディスカウント)

  • 非上場株式は流動性・換金性に乏しく、評価で考慮されるべきではないかという質問に対し、市場性がないことの考慮は一般的に認められているとの回答
  • インカム・アプローチで上場会社の割引率を使う場合は非流動性ディスカウントが適切とされる一方、純資産価額方式で売却時の税金等を考慮済みであれば、さらに割り引くと二重になるという意見
  • 会社というビークルに資産を入れただけで価値が下がるのかという問題があり、純資産価額が適切に計算されていれば低く評価する必要はないのではないかという意見

評価方法の法定化

  • 評価方法を政省令に委ねることは考えられ、研究者の間にもその意見は強い。ただし相続税ではあらゆる財産の評価が対象となり、総則6項のような規定の扱いも含め、法定化はかなり難しいのではないかという回答

会社法やM&Aの議論を税務に当てはめることへの慎重論

  • 裁判所の価格決定と税務の評価は目的やコスト負担が異なり、裁判例の傾向をそのまま見直しの論拠とすることには慎重であるべきという意見
  • M&A価格と通達評価額の差は、測ろうとする価値の概念の違いの表れであり、乖離を見直しの根拠にすることには慎重であるべきという意見。これに対し、M&A価格は一つの参考意見にとどまるが、評価額との乖離を意識した行為が行われているとの話もあり、一定のルール見直しは必要ではないかとの回答
  • DCF法の割引率も上場企業のデータに頼る以上、どの評価方式も何らかの仮定を含むという指摘。これに対し、仮定の程度には差があるのではないかとの回答

事業承継と税負担

  • 類似業種比準方式が事業承継を支えてきた現実があり、事業承継税制の利用が限定的な中で評価の議論だけが先行すると事業承継が崩れかねない。評価の見直しと事業承継税制の恒久化・拡充などを「同時・一体」で議論すべきという意見
  • これに対し、税負担の在り方は議論されるべきとの回答と、評価の段階ではなく事業承継税制で対応するのが本来ではないかとの回答がありました

次回の予定

第3回は2026年6月4日(木)10時から開催されることが、会議の最後に事務局から伝えられました。

よくある質問

Q. 第2回で評価方法の見直し案は示されましたか?

A. 示されていません。第2回は委員による説明と質疑応答が中心で、具体的な改正案や時期は公表資料には記載されていません。

Q. M&Aの価格が相続税評価の基準になるのですか?

A. 議事要旨では、M&A価格は一つの参考意見にとどまるとの説明がある一方、乖離を根拠にすることには慎重であるべきという意見も出ています。結論は出ていません。

Q. この会議の資料はどこで見られますか?

A. 国税庁ホームページの「研究会・懇談会等」で、各回の資料と議事要旨が公表されています。

出典

  • 国税庁 第2回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 資料(渋谷委員・弥永委員・熊谷委員 提出資料)
  • 国税庁 第2回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨

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