法人税における「交際費等」の範囲を解説【2023年裁判例から学ぶ】

東京地方裁判所は2023年5月12日、企業の代表者が支出した飲食代等が法人税における「交際費等」に該当するかについて判断を示しました。
結果として、単なる人脈形成目的の接待費用は、業務との関連性が認められず、「交際費等」としての認定を否定しました。
具体的な取引関係のない相手に対しての接待費用は、「交際費等」として法人税の経費計上が認められないということです。
この裁判例を受けて、税務当局による「交際費等」の取り扱いに関する調査がより厳格化されることが見込まれています。
※この裁判例の詳しい解説は「税務通信データベース」3759号(発刊日:2023/7/3)に掲載されています。
1. 法人税における「交際費等」の基本ルール
① 国税庁による定義(交際費・接待費・贈答費など)
法人税法では、「交際費等」とは取引先や仕入先、得意先などに対する接待・供応・慰安・贈答その他これらに類する行為のために支出する費用をいいます。具体例としては、飲食費、ゴルフや観劇の招待費用、記念品の贈答などが該当します。
一方で、次のようなものは「交際費等」に含まれません:
- 不特定多数を対象とした広告宣伝費(例:新聞折込広告、試供品配布)
- 社員慰安を目的とした社内飲食費(例:社員旅行、忘年会)
ポイントは「特定の相手に対して関係を円滑にするための支出」が交際費等になる点です。
② 損金不算入の範囲と上限額
交際費等は法人税計算上、原則として損金(経費)に算入できませんが、中小法人には特例があります。
●資本金1億円以下の中小法人
年800万円までの交際費等は損金算入可。超える部分は損金不算入。
●資本金1億円超の大法人
→ 原則として交際費等は全額損金不算入。
また、交際費等の中でも飲食費は50%まで損金算入可能です(大法人も適用あり)。
中小企業では、年間800万円の枠と飲食費50%控除をどう活用するかが実務のポイントです。
③ 交際費と広告宣伝費の違い
交際費と広告宣伝費の区分は、税務上の重要論点です。
●交際費:特定の取引先や関係者との関係を円滑にするための費用
例:得意先との会食、取引先への贈答品
●広告宣伝費:不特定多数に商品やサービスを周知するための費用
例:新聞広告、展示会出展、試供品の配布
同じ「贈答」でも、相手が特定か不特定かで処理区分が異なります。
広告宣伝費なら全額損金算入が可能ですが、交際費扱いになると上限や不算入の対象になります。
2. 接待の詳細について
接待を行った側と受けた側の情報を整理します。
接待した側の状況
- 事業者の業種は広告業、飲食店経営
接待を受けた相手先
- 写真家A:広告業において、事業者と業務上の取引関係があり、現在も継続中。
- 建築家B:事業者の飲食店や事務所の内装・デザインを手掛けており、事業者からロゴや名刺のデザイン業務を年間5〜10件程度受注するなど、現在も取引が継続中。
- クラブ経営者C:業務との関連性を示す具体的な説明や裏付けがない。
- バー経営者D:バーでの接待であり、業務との関連性を裏付ける説明がない。
- 飲食プロデューサーE:業務との関連を示す具体的な説明や根拠がない。
人物間の業務上の関係性や、接待費用の支出理由などが重要なポイントとなります。
3. 交際費等に該当するか否かの裁判所の判断
裁判所の判断は、以下の通りとなりました。
- 交際費等に該当するもの:写真家A、建築家B
- 交際費等と認めないもの:クラブ経営者C、バー経営者C、飲食プロディーサーE
4. まとめ
裁判所は、実際の取引関係がなければ事業関連性は認められず、単なる人脈形成目的の接待は「交際費等」と認定できないと判示しました。
ただし、クラブ経営者C、バー経営者D、飲食プロデューサーEとの付き合いの度合いが、社会通念上認められる範囲を超えていた可能性も否定できません。
事業関係者からの紹介でface-to-faceの機会を持つことや、一定の社交場への招待に関しては、ある程度は「交際費等」として認められるでしょう。
しかし、この裁判例を受けて、税務当局による「交際費等」取り扱いの判断は、より慎重になることが予想されます。
経営者としては、明確な基準を設けて「交際費等」か否かを判断する必要があります。
そうした対応が求められるようになりそうです。
国税庁のリンク!
また、国税庁が掲載している交際費等の範囲については、以下のページをご確認ください。



